1 はじめに
初めて交通事故に遭い、今は加害者の保険会社が治療費を病院に支払っているが、今後、解決までどのように進んでいくのか不安だという方も多いのではないでしょうか。また、加害者の保険会社から示談提示があったが、ここで解決すべきなのかお悩みの方もいらっしゃるでしょう。本稿では、交通事故賠償における解決方法やその手続についてご説明いたします。
どのような解決方法があり、それぞれどのようなメリットがあるのかなどを事前に知っておくことで、より適正な賠償を受けられることが期待できます。
目次
2 主な解決手続き
交通事故賠償における大まかな手続の分類として、次のものがあります。
⑴ 示談交渉
⑵ 訴訟
⑶ 調停
⑷ ADR
以下では、それぞれの手続きについて、詳細をご説明します。
3 示談交渉
手続の概要
示談交渉とは、被害者と加害者との間で行う解決に向けた話し合いのことを言います。
加害者が任意保険に入っている場合、その任意保険の担当者が交渉窓口になることが通常です。
交通事故による損害を物的損害(物損)と人的損害(人損)に分けて考え、物損の示談交渉を先行することが多いです。
示談交渉は(訴訟、調停、ADRでも同様ですが)、通常、すべての損害が確定した後に行います。そのため、人損の示談交渉は、通院が終了(「症状固定」という言い方をします。)して後遺障害の有無が確定した段階で行います。
今回の交通事故の損害賠償の金額を当事者間で協議(交渉)し、金額が確定できれば、示談書を取り交わして解決となります。
示談交渉の特徴
示談交渉は、加害者側の任意保険会社との間での話合いであり、裁判所やADRなどの機関が関与しない手続です。
そのため、他の手続と比べて早期に解決できるケースが多いのが特徴です。
もっとも、あくまで任意での解決を目指すものですので、当事者の主張する金額に大きな開きがあったり、損害項目について争いがある場合には、解決に至らないことが予想されます。
また、裁判外での早期解決を目指す手続という性質上、弁護士費用や遅延損害金(損害賠償額に対する利息のようなものです。)が含まれないことが多いです。
示談交渉を弁護士に依頼するメリット
示談交渉は、被害者ご本人様が対応することも可能です。
もっとも、一般の方で交通事故の賠償に精通している方は少ないでしょうし、どのくらいの金額が適正なのかを判断することは困難です。
示談交渉の相手方である保険会社は、あくまでも契約者である加害者の代理人という立場ですので、相手の言うことをそのまま受け入れていいのかと悩まれることでしょう。
示談交渉を弁護士に依頼した場合、交渉はすべて弁護士が対応します。そのため、加害者側保険会社との交渉による負担や不安は解消されます。
また、被害者の方がご自身で示談交渉した場合、慰謝料や休業損害の項目について、訴訟における見通しより低い金額で示談となることがほとんどですが、弁護士が示談交渉をすることにより、訴訟での見通しに準じて交渉し、可能な限り適正な賠償を受けられるよう努めます。
弁護士に示談交渉を依頼した場合、弁護士費用が必要となりますが、ご自身やご家族が加入されている保険に「弁護士費用特約」が付帯していれば、費用の心配なく依頼することができます。
4 訴訟
手続の概要
訴訟とは、裁判所へ訴えを起こして審理を求める手続です。当事者間で争いのある点について、裁判所が法律と証拠に基づいて判断をします。
訴訟は三審制とされており、第1審で敗訴した当事者は控訴して再度判断を求めることができます。
訴訟の特徴
訴訟では、最終的には裁判所が判決という形で判断するため、当事者の言い分がいつまでも平行線で解決しないという事態はありません。
また、通院慰謝料や後遺障害慰謝料もいわゆる裁判基準で算定され、不等に金額となることはありません。
さらに手続の中で文書送付嘱託や鑑定も想定されており、より実質的な判断が期待できます。
裁判の期日は概ね1か月から1か月半のペースで進みます。途中で和解期日が設けられることも多いです。
訴訟を弁護士に依頼するメリット
訴訟は、裁判所において実施され、その進行自体も民事訴訟法に基づいて行われます。ドラマなどで目にするように、当事者が法廷で議論を繰り広げる場面をイメージされる方も多いかもしれません。しかし、実際には、主張書面や証拠資料等を提出して進んでいきます。主張書面の記載・提出方法も決まっています。そのため、訴訟の対応には高度の専門知識が必要となり、一般の方では対応が難しいのが実情です。
また、被害者自身が原告となり訴えを提起する場合は、原則として裁判所に出廷する必要があります(平日に開かれます。)。この点、弁護士に依頼した場合には、弁護士が代理人として訴訟対応をしますので、被害者の方に法的知識は求められませんし、毎回の期日にご本人が出廷する必要はありません。
弁護士が対応することで、大きな負担無く、弁護士費用や遅延損害金を含めた適正な賠償を受けられることが期待できます。
5 調停
調停の概要
調停は、訴訟と同様に、裁判所において行われる手続です。
もっとも、判決を前提とするものではなく、当事者の合意による解決を目指すものです。
調停の特徴
上記のとおり、調停はあくまで当事者の合意による解決を目指す手続です。そのため、当事者間で意見に折り合いがつかず、合意できない場合には調停で解決することはできません。
その場合には調停は不調により終了となり、解決のためには改めて訴訟をする必要があります。
とはいえ、調停は、裁判官と交通事故の高い知識を有する専門委員2名(弁護士や損保のOBの方など)が担当し、証拠資料を精査しながら訴訟での見通しを念頭に解決に向けて進めます。
そのため、訴訟での見通しを想定した合理的な解決が期待できます。
また、調停の申立てにも手数料(収入印紙)が必要となりますが、訴訟の半額で済みます。
調停を弁護士に依頼するメリット
調停は、当事者の合意による解決という側面がありますが、やはり法律の規定や証拠関係が大前提となります。そのため、調停でも高い専門知識が必要となり、一般の方では対応が難しいでしょう。
加害者が任意保険に加入している場合、交渉段階では保険会社の担当者が対応しますが、調停となれば保険会社の弁護士が対応します。
また、訴訟と同様、調停も毎回の期日に出廷する必要がありますが、弁護士に依頼すれば弁護士が代理人として対応することができますので、出廷の手間も回避できます。
6 ADR
ADRとは、裁判外での手続による紛争斡旋機関の総称を言います。
ここでは、交通事故の紛争斡旋機関のうち、代表的なもの2つを取り上げます。
交通事故紛争処理センター
交通事故紛争処理センターとは、交通事故被害者の中立・公正・迅速な救済を図ることを目的として発足した公益財団法人です。東京本部のほか、大阪、名古屋、福岡など、全国に10か所の支部・相談室があります。
同センターでは、交通事故に精通した弁護士が相談担当として被害者と加害者側保険会社の間に入り、中立・公正な立場から和解のあっせんをします。
進め方のイメージとしては調停に近いところがありますが、交通事故紛争処理センターでは、和解が成立しなかった場合、被害者が審査を申し立てることができます。
紛争処理センターの審査会では、数名の審査員が事案を検討し、損害額を裁定という形で当事者双方に示します。
この裁定で示された損害額について、被害者側は不服があれば応じないこともできます。他方、加害者の保険会社はこの裁定に拘束され、被害者が応じるとなると、それに従わなければなりません。
ここに、交通事故紛争処理センターの解決の実効性があります。
もっとも、交通事故紛争処理センターでは、加害者が自転車の案件では利用できず、また、加害者に任意保険会社がついてないケースでは原則利用できない(相手がタクシー会社でタクシー共済に加入しているケースでは利用できません。)などの制限があります。
また、後遺障害の有無や後遺障害等級に関する争いに対しては、交通事故紛争処理センターで取り扱うことはできません。
日弁連交通事故相談センター
「日弁連」とは、弁護士が必ず加入する団体です。その弁護士の団体である日弁連が主体となり、交通事故の紛争を適正・迅速に解決することを目的として、相談や示談あっせん・審査を行う公益財団法人です。
日弁連交通事故相談センターでも、相談のほか、示談あっせんをできます。もっとも、交通事故紛争処理センターのような加害者側保険会社に対する拘束が必ずしもあるわけではありません。そのため、示談あっせんを実施しても当事者のいずれかが解決を拒めば、不成立となります。
例外として、加害者側がセンターが指定する9つの共済のいずれかである場合には、示談あっせんが不成立となった場合でも審査を申し込むことができ、その審査の結論について、加害者側の共済は尊重することとされています。
ADRを弁護士に依頼するメリット
交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターといったADRも、調停と同様に当事者の合意による解決を目指し、中立・公正な立場で関与する機関です。
ここでも、やはり法律の考え方や証拠関係が前提となりますので、高い専門知識が必要となり、一般の方では対応が難しいでしょう。
また、示談あっせんを実施するとなれば、毎回の期日に出廷する必要がありますが、弁護士に依頼すれば弁護士が代理人として対応することができます。
7 まとめ
以上のとおり、交通事故の解決に向けた手続は、示談交渉だけでなく、調停、訴訟、各種ADR機関の利用など、様々です。
各手続に共通して、適切な賠償を受けるためには交通事故賠償の知識が不可欠です。
また、どの手続が相応しいのか、解決までの時間や見通しを考えてどの手続が戦略的に良いのかも事案によって異なります。
調停やADRであれば話合いが中心なのでご自身でも対応できるのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、調停が不調となれば、残された解決手段は訴訟しかありませんが、訴訟での見通しを考えると、調停で示された解決案で合意する方が有利であった可能性も考えられます。
このことから、交通事故に遭われた際には、すみやかに弁護士にご相談されることをおすすめします。
大阪バディ法律事務所では、交通事故の経験豊富な弁護士が、被害者の方に寄り添って、より適切な解決方法をご提案させていただきます。